妖あやし、恋は難し
仕事の依頼は久しぶりだった。
そう、湊の一件以来。
(あのガードマンさん…名前なんだっけ。人の名前覚えるの苦手なんだよなあ…)
あの日から湊には会っていない。
ただ、後日ポストに依頼料と書かれた白い封筒が入っていた。
お金と、『感謝する』と一言だけ書かれた便箋が同封されて。
(まあ、【ハク】にお願いして送り返したけど…怒ってるかなあ。受け取るわけにもいかないし…、もう会うこともないだろうし、考えても仕方ないよね)
それにしても暑い。
久し振りに思い出した怖い顔のガードマンさんは、記録的な暑さも相まってすぐに結の頭から消え去ってしまう。
天気予報でも今日は猛暑になると言っていたが、ここまでとは。
(ううぅ~~グラグラするぅ)
暑さに弱い結は、だるそうに首を垂れた。
しばらくすると
「隣、いいか」
と頭上から声が落とされる。
男性の、低い声。
【ハク】のものではない。
ここは指定席の車両だ。
隣はてっきり空席だと思っていたが、どうやら違ったらしい。
(がっかり…)
せっかく二席分を独り占め出来ると思っていたのに。
知らない人とは関わらないが吉。
そう感じた結は無礼と知りながらも、顔も上げずに「どうぞ」と勧めて、自分は目を閉じる。
間を置かず隣の席に人が座り、ぎしっと席がきしみ、
感覚だけでそれを知った結は、なるべく迷惑にならないようにと出来る限り窓側に寄っておいた。