妖あやし、恋は難し
「……ッッッ!!?」
(ななな何でこの人がここに!?)
結の脳内は突如としてパニック状態に陥った。
考えても見てほしい。
一度目は仕事でたまたま会っただけ。
二度目は、一度目の事がきっかけで仕事を依頼されただけ。
つまり結と湊の間には『仕事』という繋がりしかないのである。
それ以上でも以下でもない。
それも前回でぶつりと切れたはずだった。
結が黙って消えたことで。
だから彼がここにいるはずがないのだ。
本当に、たまたま、偶然、隣の席になるなんてことが起きない限り。
(はっ…!も、もしかして、まったくの別人!? そ、そうよ!怖い顔の人なんてこの世に五万といるじゃない。実際に会ったのだって二回だけだし、その時も顔、ちゃんと見てなかったし…!)
結は頭の中で必死に現状の言い訳を繰り返した。
ペットボトルを受け取る事すら忘れて。
「おい」
「…」ブツブツ
「おいっ」
「……ありえない、ありえない…」ブツブツ
「おいっ!!いい加減…」
無視をするな。
相手がムキになってそう叫ぼうとしたその時、再び新幹線が大きく揺れ、急停止してしまった。
それはまあ、いい。
問題はこの後。
「きゃあっ!!」
結はペットボトルをとるために、席に浅く座り前のめりになっていた。
それがいけなかった。
新幹線の急停止のせいで、不安定な姿勢だった結は前に飛ばされたのだ。