妖あやし、恋は難し




結局、新幹線が再び走り始めたのは、それから数十分が経った後だった。


「まったく…!いい加減にしてよ!!新幹線止めたらどれだけ迷惑がかかると思ってんの!?」

『だが…』

「言い訳は聞かない!バカッ!バカ鬼!」

『すまん…次は、場所を選んで殺す』

「そういう問題じゃないでしょッ!」


ボカっ!!


席についてからも小声で続く結の説教。

傍から見れば一人でブツブツとしゃべり、宙をポカポカ叩いている変な女の子に見えるだろうが、生憎それを見ているのは隣に座る湊だけ。

(変なヤツ…)

結の言動を横目で見つつ、湊はそんな風に思っていた。

今、彼女の前にはおそらく目には見えない【なにか】が居るのだろう。

そのことに関して、湊はもう、以前ほどの嫌悪や不信感は抱いていない。

きっとほかの誰かがそんな事をすれば、以前同様、虫唾が走り反吐が出る、などの症状に襲われるのだろうが。

姉の一件で、彼にとっての『一条結』という少女の存在は彼らとは全くの別物へと変わっていた。



新幹線が走る。


しばらくして、結がようやく静かになると、

「あの…」と、彼女の方から湊に話しかけてきた。

湊は正直、驚いた。けして顔には出さないが内心ではかなり。


(てっきり、このまま無視するのかと…)

そのことは口に出さず、顔だけ結のほうに向ける。

「あ、…暑い、ですね!今日」

「ああ」

「あ、あの…今日は、ご、ご旅行、ですか?」

「…仕事だ」

「あ、仕事!そ、そうですか…」


それからまた沈黙。

必死に言葉を選んでいるようだった。

話したくなさそうなのに、話題を探し嫌いな相手と話そうとするのは無言の時間が苦手な体質だからかもしれない。


(俺はそれでも、一向に構わないんだが…)

そんな湊とは裏腹に、結がようやく見つけた話題は、

「あの…い、行先は…どちらで」

皮肉にも彼の仕事の行き先についてだった。

その内容に心底ショックを受けるとは知らずに。


「京都」

「え゛」

「黒木組だ」

「ええ゛ッ!!?」


(驚いてる…)


翡翠色の瞳を見開き、結は驚愕する。

当然だ。

湊の行き先、そこは結の行き先と全く同じ場所。

予想通りの反応に、湊は小さくため息を付いて目線を逸らす。

眉間により深く皺を作り、ほんの少しだけ悲しそうな表情を滲ませて。





これが一条結と皇湊との、三度目の出会い。

本当に、二度ある事は三度あるのだと、痛いほど実感する結。

彼女はまだ、三度の目の彼との出会いを、偶然の産物だとばかり、思っていたのだった。


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