妖あやし、恋は難し

黒木組




「うわあ…おっきい…!!」


『黒木組』


でかでかと墨でそう書かれた看板は、京都の町、と言っても郊外の奥まった路地の一角に、ドンと立てられていた。

そこは昔ながらの日本家屋で、ヤクザの事務所にしてはかなり大きく、歴史のある組であることは結の目にも分かる程。

思わず声に出して感嘆してしまった。

建物の前には門番のようなイカツイ顔の男が一人、メンチを切りながら立っている。

黒スーツにオールバック。


(ガードマンさんそっくり)


いまだ名前を思い出せない結は、心の中でそう呟く。

彼らはクールビズという言葉を知らないのだろうか。

この炎天下で暑苦しいにも程がある。

少し離れた場所から事務所を眺めていた結は、呆れたように眉を顰めた。


今回の依頼はここの組長、黒木 剛蔵(ごうぞう)を救うこと。

結が受け取った依頼書にはそれだけが書かれており、詳しくは会って話すとのことだった。

しかし、ヤクザ絡みの依頼は大抵一つだけ。予想はつく。


(ガードマンさんは…何の依頼なんだろう…)


おそらく組長の護衛か何かなのだろうが、新幹線で同じ場所に仕事しに行くという事が判明してから何も話していないので、実際の所何も分かっていない。

暑さをものともしない真っ黒なスーツ姿で結の隣に立つ彼は、相変わらず見た目だけ見るとヤクザ顔負けだ。

きっと彼が組の構成員だと言っても、誰ひとり疑わないだろう。

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