妖あやし、恋は難し
「何だてめえら、こっちジロジロ見やがって」
門番は目の前にやってきた結達を睨みつけ、そういった。
「あ、あの…黒木剛蔵様からの依頼で参りました、一条結と申します。こ、これが依頼状です。ご確認ください」
結は少し怯えながらも、堂々と背筋を伸ばしてやり取りをする。
ヤクザの事務所に仕事で行く事は、今回で三度目。
変に怯えても良い事などないと、これまでの経験で知っていた。
「…ここで待て」
そう言うと門番の男は中に入っていき、しばらく待たされた後、湊と一緒に中へと案内された。
手入れの行き届いた美しい日本庭園の間を石畳に沿って歩いていく。
結が先に、後から湊が。
(そう言えば、ガードマンさん…名前名乗らなかった、何でだろう…)
そんな事を考えつつ、
黒スーツの舎弟たちの目が光る中、玄関を上がり通された場所は何重もの襖が続く和室。
襖の奥へと進むたびに舎弟たちの数が増え、最後から二番目の部屋には明らかな組の頭的な、外の舎弟とは段違いに怖い顔の男が二人、部屋の中央に腰を据えていた。
一人はかなり年季の入った顔のおじさんで、もう一人は若く、けれど額に包帯が巻かれその隙間から痛々しい傷が覗く、明らかに普通ではない男である。
「ようこそ、遠い所からおいで下さりやした。あっしは、黒木組組長補佐をしておりやす、登坂(とうさか)。こっちの若いもんは用心棒を取りまとめておりやす蓮(れん)、言います。どうぞお見知りおきを」
そう言うと登坂は両の手をついて深々と、頭に怪我をした蓮は浅く頭を下げた。
慌てて結も二人の前に腰を下ろし、頭を下げる。
「あっ、わ、わたくし、こちらの依頼を受けてまいりました、【陰陽師】一条結と申しますっ!」
「存じておりやす。こんたびは、あっしら組のもんが不貞を働きやせんでしたか?なにぶんここは男所帯、女っ気がまったくありやせんもんで、一条様のような若い別嬪さんには目がないんでごぜえます」
「い、いいえっ!そそ、そんなっ」
終始慌てて、全力で否定する結。
その姿を見て登坂は、怖い顔をわずかに崩しておかしそうにくすっと笑った。
「…ふふ」
「あ、あの…どうかしましたか?私、何か変な事でも…」
「いやあ、想像よりも随分と可愛らしいお嬢さんやと、思いやして」
「?」
「噂で聞いた一条結さんって方は、もう少し年上の、大人の女性と勝手に想像していたもんで…すいやせん」
「あ、…こちらこそ…」
そんな話を登坂としているあいだ隣に座る蓮はただじっと、何も言わず湊を睨みつけていた。