妖あやし、恋は難し




おそらく子供で女の結がこの場所を怖がっていると思ったのだろう。

場を和ませるためか、登坂はそれから暫く世間話をしたあとようやく話を切り出した。

しかし


「――それじゃあ、そろそろ本題に移りやしょう」

「ちょっと待て」


登坂のその一言を、蓮が遮った。

そして次の瞬間、結の目に移る景色は一変する。

膝立ちになった蓮が懐から何かを取り出す。


拳銃だ。


それの銃口を湊の額に突きつける前に、湊もまた懐から拳銃を取り出し、蓮の額に銃口を向ける。

その間、わずか一秒か、それ以下。

それから数秒遅れ、周りに居た大勢の舎弟たちも拳銃を取り出し、皆それを湊に向けた。


たった数秒。


結が瞬きをする間に、そこは拳銃の埋め尽くす戦場へ変わったのだ。

おそらく人生で一番と言っていいほど驚いた。

今朝、新幹線で湊に再会した時の驚きが懐かしい。

愕然とする結の隣で、銃口に囲まれながらも表情一つ変えない湊。


彼に向かって蓮が静かに口を開いた。


「…いい反射神経、度胸も悪くない。チャカも持ち歩いていやがる、一般人じゃねえ、一体何者だ?名乗れ」

「たかだか二十歳やそこらの用心棒に名前を教える義理はない」


湊の落ち着き払った様子が気に食わなかったのか、はたまた彼の返答が気に食わなかったのか、蓮は眉間に皺をよせ、拳銃を持つ手に改めて力を籠める。


「…なめてると痛い目を見るぞ、名を言え」

「断る」

「ッテメエ…!!撃たれてえのか!!」

「度胸もねえくせに」

「ああ゛!!?」

「よさねえか、蓮!!!」

「ですが登坂さん!!!」


湊の好戦的な態度にいまにも発砲しそうな蓮を登坂が諫めようとする。

先程までの穏やかな口調ではなく、怒気を含んだ大きく野太い声で。

それでも銃の引き金にかけた指を下ろさない蓮に結はハラハラとしながら、けれど何もできずに固まっていた。


「お前らハジキをしまえ、蓮!てめえらもさっさとしまわねえか!!!」

「しかし!こんな素性を知れねえやつを中にいれるなんて間違ってる!!特に今はなおさらです!!このバカみたいなガキ女はともかく、こいつは危険だ!いくら親父の許可が下りたからって…」

(バカって…)結が心の中で苦笑いを浮かべていると、突然湊が動き出した。


蓮の拳銃を即座に奪い、

抵抗しようとした蓮の動きを完全に塞ぎ、

両腕を後ろでしばりあげ、膝をつかせ、

壁に顔を押さえ付ける。



ついでに拳銃を背中に突き立てて。



< 67 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop