妖あやし、恋は難し
これもまたたった数秒。
蓮に反撃の隙すら与えなかった。
登坂の喝に拳銃を下ろしかけていた周りの舎弟たちも、湊を危険人物と判断し再び構える。
「……ッッ!!!」
「バカなのはテメエらだ、口を慎めクソガキ。俺を怒らせてくれるなよ、ここに来た時点でもう半分キレかけてる。次この生意気な口を開けば…分かるよな?そこまでバカじゃねえことを祈る」
「…ぐ、!!」
「お利口だ。ついでに良く聞け。彼女はお前らが《依頼》して呼んだ人物で、俺の《警護対象者》だ」
(え?)
湊の言葉に、結は耳を疑った。
いま、私を警護対象者だと言った?そんなの初耳だ。
しかしそんな結の事は完全に無視して話は進む。
「け、警護対象??」
「そうだ。それが必要なのはお前らの方がよく知ってる筈だろ。俺は今この組が置かれている状況、ピリピリしている理由、貴様が怪我をしている訳、その全てを理解している。だが彼女は別だ。この世界に無縁の人間。本来なら警護の一つ、依頼主のあんたらが用意してしかるべきだ、それだけ危険な場所に連れ込んでる。なあ登坂とか言う組長補佐さんよお」
だが、そうはしなかった。
「予想はしてたがな。あんた達は自分本位、特に今は女子供にすら目をかける余裕がない。だから俺がきた。彼女をまもるために」
湊は蓮に拳銃を再度押し付け、言う。
「おいクソガキ、良く聞け。俺はお前が思っているよりずっと腕がたつ。今ここで、この場に居る人間全員を殺すこともできる。彼女に傷を負わせることなく、この拳銃一つで。お前らとは経験も実力も違う」
「…ッ!!」
「加えて、俺はかなり短気でね。お前らが彼女に軽率な口と行動をとるたびに俺の我慢の糸が一本ずつブチ切れていく。十本あるとすれば今すでに半分が切れた、残り五本。一本切れるごとに俺の少ない忍耐力は削れて、最後には一体どうなると思う。試してみるか?」
「…ッ肝に銘じる!!」
「その前に?」
「ッハア、…ッす、すまない!!!」
「そうだ、悪いことをしたら謝らないとな。人としての礼儀だ、覚えとけクソガキ」
そうして、湊はようやく拳銃をしまい蓮を解放
まわりの舎弟たちはもれなく、蓮もまた酷く怯えた顔をして。
どうやら湊のいびりが相当堪えたらしい。彼としては大成功だが、同様に怯えた顔をする結を見て、ほんの少しだけ後悔したのは彼だけの秘密である。