妖あやし、恋は難し
「どうも、うちのもんがご迷惑おかけしやした!!!」
騒ぎの間ずっと微動だにせず座っていた登坂が、勢い良く頭を下げた。
相当肝っ玉が据わってる。この中じゃ唯一見込みがある方だろう。
「こちらも暴れ過ぎた」
「いいえ!全て、こちらの不手際でございやす!!親父から丁重に扱えと再三忠告されていたのに、すいやせんでした」
「もういい、これ以降俺はしゃしゃりでない。俺の仕事は彼女の護衛、あんたの仕事相手は彼女だ。お前らの仕事の話をしろ、俺は彼女を守る。他はどうでもいい」
「分かりやした…」
「少し席を外す、その間に彼女と話を済ませろ。離れた場所で見てる、余計なことはするなよ」
「ッ…分かってる」
「なめた口もきくな」
「っああ」
そう言って湊が離れていくと、蓮は大きなため息を付きながら結に向かって
「とんでもない奴を雇ってくれたな…!!」
と苦言を漏らす。
「雇ったわけじゃ、ないんですけど……」とカラ笑いする結の後ろで「聞こえてるぞ」と湊がいい、さらに冷や汗を流す蓮なのだった。
◇
一方、湊は。
続き部屋になっている隣に移り、懐からタバコを取り出した。
もちろんそこも舎弟たちでいっぱい。
拳銃を取り出すかとあからさまにビビる彼らを横目に、タバコを口に加えた。
「タバコ、吸っていいか?」
「は、はいっ!!!」
すると舎弟の一人が目上の者にするように、自分のライターを取り出して湊のタバコに火をつける。
「…別にそんなことしなくていい。俺はあんたらのボスじゃねえんだ」
「あ、はいっ!すいやせん…つい癖で…」
「俺の事は無視してくれて構わん、余計な事をしない限りさっきのように手は出さないから、安心しろ」
「は、はい…」
湊はタバコの深く吸って、体中に溜まったストレスを一緒に吐き出す。
部屋の中では結と登坂が話している。
内容は分からない。口元を読めばわからに事はないが、仕事の内容には立ち入らない。
その様子を見ながら、湊は昨日の事を思い出していた。