妖あやし、恋は難し

昨日のすっかり夜が更けた頃。


「湊兄ちゃんっ湊兄ちゃん!大変っ!!一大事なのーー!」

「助けてー湊ーー!!」


はた迷惑な怒鳴り文句で湊の家に突撃訪問してきた女たちがいた。

従妹の蘭と、すっかり元気になった姉の遥である。

仕事終わりでビール片手にタバコを加えていた湊は心底に嫌そうにしていたが、彼女たちの口から飛び出した言葉に表情が一変する。


「結ちゃんがヤクザに襲われるーーー!!!」

「…は??」

話を聞いていくと、明日一条結が京都の黒木組のというヤクザの元へ向かうという事が判明。

何故それを蘭や遥が知っているのかも気になったが、それより引っかかったのは『黒木組』だった。


『黒木組』と言えば関西でトップの力を持つ歴史あるヤクザ。


各地のヤクザが指定暴力団と呼ばれ恐れられている中、彼らは喧嘩や暴力を酷く嫌い同業の荒っぽい奴らから地元を守る極めて良心的な地域に根付いた活動をしている。

そんな彼らは今、かつてない危機に陥っていた。

敵対していた暴力団が他のいくつか組と手を結んで、黒木組を陥れようと画策しているのだ。

まだ表ざたにはなっていないが、裏社会じゃかなりの騒ぎになっている。


湊の耳に届くぐらいには。


おまけに噂では黒木組の組長は病魔に侵され余命いくばくもないと言う。

おそらく結はその件で出向くのだろう。

そんな場所に彼女を行かせてみろ、ピリピリとした緊張状態の男所帯でどんな問題に晒されるか分かったもんじゃない。


「どうしよう、湊っ!」

「結ちゃんが死んじゃう~!!」

「……分かった、俺がどうにかするから。だからお前らが泣くなよ…」


そんなわけで湊は急遽、京都に赴くことになったのである。

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