妖あやし、恋は難し
病室に入る。
途端に結は顔をしかめた。吐き気が襲う。
(これは…ひどい。空気が穢れてる…)
ベッドに視線を向けると黒木剛蔵を覆い包む様に黒く淀んだ靄が見て取れた。
もちろんこれは結以外の人間には見えない。
靄の正体、それは悪霊だった。
以前の柳邸のように一体ではない。複数の悪霊が黒木の身体に憑りついている。
ヤクザではこういう事は少なくない。
人に恨みを買う仕事をする人達は呪われやすいからである。
前回の岸科会の幹部の時もそうだった。
(でも…ここまで酷いのは初めて。十体近い悪霊が身体の深部まで複雑に入り込んで魂を侵してる…)
空気の淀みと穢れは、他の悪霊と彼らが放つ邪気のせいのよう。
(まずここからだ…今回は時間がかかりそう…)
そう覚悟した結はとりあえず、登坂の元へ。
「どうですか一条様、親父は…」
「…信じてもらえるか分かりませんが、祟られていますね、たくさんの悪霊に」
「そ、それで、助かるんでしょうか!?」
心配そうにそう尋ねる登坂に、結は翡翠色の瞳を細めてにっこり笑って、
「助かりますよ、ちょっと時間はかかりますけど」
と、そう言った。