妖あやし、恋は難し
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さっそく結は風呂敷包みから巫女装束を取り出し着替え始める。
部屋の入り口には蓮と舎弟が数名、それに湊が見張りに残っていたが構うもんか。
変な所で肝が据わっている結は袴の帯紐をグッと力強く結び、気合を入れ直す。
「よし、とりあえず…【ハク】こっち来て。…【ハク】?」
いつもそばに居るはずの【鬼】に声をかけるが返事がない。
辺りを見回すと、彼は結以外に自分が見えないことをいいことに湊の眼前に立っていた。
腕を組みじっと睨みつけている。
「ちょっと、何してるの!?」
『…このクズを殺す隙を伺っている』
「まだ諦めてなかったの!?バカっこっち来るの!!!」
『ふん』
一人でぷんすこ怒る結。
傍から見たら毎度のごとく異様な光景だ。
蓮たちは顔を引きつらせているが、湊は表情を変えずに平然としている。
慣れとは恐ろしいものである。
『なんだ結』
「いい?よく聞いて。今からこの部屋を浄化するから」
『…どの程度』
「あなたが近寄れなくなる程度」
『!!』
結は生まれた時から、悪霊や妖を浄化する『霊力』というものが人並み以上にあった。
霊能者には必要不可欠な力がコレだ。
普段は自分自身に封印をかけることで周囲の霊や妖に意図せぬ影響を与えない状態にしているが、ひとたび封印を解けば【ハク】でさえ近寄れないほどの浄化作用が彼女の周辺で起こる
すぐに元通り封印したとしてもその効果は継続され、数日間は妖の類は結に近寄れない。
『…そこまでしなきゃいけないのか』
「なるべく早くある程度の結果を出さないといけないから」
『でも…近寄れないと俺が守れない』
「…たぶん大丈夫だよ。今回はガードマンさんもいるし、優しい人が多そうだし」
ね?
そう言って笑う結を、【ハク】は解せないとでも言いたい顔で見つめる。
四六時中彼女の傍に居続けている【ハク】
結にとってのガードマンは今までずっと彼だった。この先も他の誰かに任せる気はない。
だが、妖である以上どうあがいても近づけない、そうなれば守ることは無理だ。
『……なるべく近くに居る』
「うん、分かってる。いつもありがとね」
あ、また余計なことしちゃだめだからね!
と注意を背に浴びながら、【鬼】の鋭い瞳が見つめる先には湊が。
結を守ると豪語したからには、へまをしたら末代まで呪ってやる
そう思われていることなど知る由もなく、湊は護衛を続けていた。