妖あやし、恋は難し

(よし、初めよう…)


結は部屋の中央に立つと、瞼を閉じ集中する。

自分にかけた封印を解くのは簡単だ。

手で印を結び解除の言葉を言えばいい。

目を開いた結は両手で素早く印を結んで、【封印・解】と唱えた。


その瞬間、結の額、手首、首元に光の模様が現れる。
服で見えない場所にも同様の模様が。

この模様こそ結の力を封じ込めている封印そのもの。

それが崩れる様に跡形もなく消える。

すると、窓もないのに部屋に一陣の風が吹いた。
突然病室内から吹き抜ける風に驚く蓮たちと、姉の遥の時を彷彿とさせる現象に、何かをやっているのかと察する湊。

結の身体から普通の人間には見えない光が放たれ、部屋の中の穢れが瞬く間に正常化していく。

しばらくして淀みが完全に無くなったことを確認してから結は再度力を封印し、ほっと息をついた。


一方、
一連の流れを部屋の外で眺めていた蓮たちの目には、驚きの光景が広がっていた。

風が吹き抜け思わず目をそらし、次に結の方を見やると、彼女が輝いて見えたからだ。
誇張や揶揄ではない。

本当に、何かキラキラと粉のようなものをまき散らしていたのだ。

ピーターパンに出てくる妖精のように、金の光る粉を全身から溢れだしている。


「な、なんだ、アレ…目がおかしくなったのか…??」


蓮は何度も目をこすり見返すが、一向に消えないキラキラ。

心なしか巫女装束の間からのぞく白い肌も光って見える。


通常なら、結たち力を持つ者の『霊力』が、一般の、何も見えない人間に影響を及ぼすことはない

が、その力が強すぎるとこういった弊害が発生してしまうことが度々ある。

それが、結が自分の力を封印している理由の一つでもある。


しばらくはこのキラキラも止まらないので人目につくことは避けなければ。


とにもかくにも穢れの浄化には成功したらしい。



喜ぶ結の後ろで、蓮たちはなおも自身の目が異常なのかと慌てていた。


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