妖あやし、恋は難し
それから結は、いつものように除霊に没頭する。
静かに、ただただ静かに、目を閉じて。
彼女の集中力が続く限り行われるそれを、ベッドの中から剛蔵が見つめていた。
声をかけてはいけないと、何となく分かる。
尋常ではない彼女の集中力に感心しながらも、けして声を挙げずに剛蔵はベッドの中で横たわる。
そしていつの間にかそのまま夢の中へと落ちていった。
◆
暖かな場所にいた。
(これは…夢か……)
真っ白な何も無い空間に一人、剛蔵は立つ。
辺りを見回すと、白い空間にもう一つ人影があった。
小さな女の子。
黒く艶やかな長い髪の中に、一房だけ、真っ白な白髪が混じっていて
その隙間から、大きな瞳が覗く
まるで宝石がそこにあるかの如く、その女の子の翡翠の瞳は輝いて見えた。
『おじさん、だぁれ?』
女の子が問いかける。小鳥な歌うような高く可愛い声で。
剛蔵はニコッと笑い、女の子に目線を合わせるためしゃがみこんだ。
『おじさんは、黒木剛蔵だ。お嬢ちゃんは?』
『わたし?わたしは…ワタシ。名前はね、おしえちゃいけないの』
『どうしてだい?』
『それはね、おばけに食べられちゃうから』
『え、…』
『おじちゃんも狙われてる。だからここにいるんだよ』
ほら、見て。
女の子はそう言って指さした。
その先を目で追いかけると、真っ白な空間に突如として門が出現した。
ゆっくりと扉が開く。
扉の奥は、白い空間と全くの真逆。真っ黒な闇が広がっていた。
そして次の瞬間、その闇の中から血みどろの手が飛び出し、剛蔵はびくっと肩を強張らせて目を見開く。
禍々しき悪霊が地面を這いつくばり、こちらに向かって手を伸ばしていたのだ。
まるでホラー映画さながらである。
『早く扉を閉めないと…!』
『大丈夫だよおじちゃん。おばけはこのお部屋には入ってこれないの。ドアが開いててもムリだよ』
彼女の言う通り、悪霊は扉の先へ超えることが出来ないようで、腕と顔までは出すがそれ以上は進んでこなかった。
『おばけはわたしを食べたいからここに来るの。でもわたしはこの部屋をつくれるから大丈夫なの』
『そうなのか…お嬢ちゃんがこの部屋を…』
『うん。ずっとね、ここにいる。いつも一人ぼっちだけど、ときどきおじちゃんみたいに人が来るからさびしくないよ』
女の子は小さく笑ってそう言った。