妖あやし、恋は難し
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気づくとそこはベッドの上だった。
先程までの真っ白空間でもなく、女の子もいない。
見慣れた天井に点滴などの医療器具。それらを見て、自分が寝ていた部屋に戻ってきたと知る。
「よく眠れましたか?」
すぐそばで声がした。
結の声だった。
「ああ…少し、寝ていた。今何時かな」
「今夕方の八時すぎです」
「…もうそんなに。随分と眠っていたらしい」
「除霊中は体力を消耗しますから、無理もありません。あと三日はこれが続きます。大丈夫ですか?」
「…ああ、大丈夫だ。こちらこそ申し訳ない。手間をかけさせる」
「いいえ。仕事ですから」
では、また明日。
ゆっくりお休みください。
結はそう言うと部屋を後にする。
その後姿が夢の中のあの女の子と重なって。
剛蔵は何度か目をぱちぱちさせるのだった。
その日以来、夢の中に彼女が現れることはなかった。
小さな小さな、一人ぼっちの少女。
結とよく似たその女の子。
もしかしたら、彼女こそ一条結の本当の姿なのかもしれないと、剛蔵は密かに思う。
強く、たくましく、優しい笑みを浮かべる彼女の、けして人に見せることのない心の叫びかも知れない、と。
それはまだ、明らかになることのない彼女の秘密。
彼女の『本当の名』と、生まれた時からの『使命』が明らかになるその時まで。
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