妖あやし、恋は難し

湊の不運は続く。

「あ、あの人です!なんか、こう子犬みたいな可愛いプルプル震えてる女の子といた怪しい男!!」

ファミレスの、少し奥まったところに設置されたトイレ。
そこの前に立っていた湊の耳に、声が聞こえてきた。

見れば先程のウエイトレスが警官らしき男と話しているではないか。

おそらく周辺を巡回していた交番のお巡りだろう。

彼らの目が湊に向けられる。

繰り返し言うが、湊の顔はお世辞でも人のいい顔とは言えない。

完全な悪人顔。

指名手配犯だとしても不思議はない風体なのだ。


「ちょっとすいません、二三質問を…」


案の定、警官は職質を始める。

が、

湊に答えるつもりは毛頭ない。


「お兄さん、名前は?」

「……」

「ちょっと聞いてる?名前は、職業は何?一緒に居た女の子との関係は?」

「……」

「…お兄さん、質問に答えないと交番に来てもらうことになりますけど」

「……」


皇湊、ガン無視を決め込む。

質問を返すこともトイレの前から動くこともしない。

自分たちが無視されていることで徐々に苛立ち始めた警官の一人が、湊の腕をつかんだ。


「…状況が分かってないみたいだな、我々と一緒にきてもらおう」

だが、苛立ち具合であれば湊も負けちゃいなかった。

目の前の警官より一回り大きな体を微動だにさせず、鋭い眼でギロりと見下ろし、言う。

「状況が分かってないのはてめぇの方だ、仕事の邪魔をするな。その女の勝手な勘違いに俺を巻き込むんじゃねえ。死にたくなかったらとっとと失せろ」

「なッ…!!警官を脅す気か貴様!現行犯逮捕してもいいんだぞ!」

「したきゃしろよ、出来るならな」

「ッ!!貴様を、恐喝罪で現行犯逮捕する!」


手錠を取り出す警官。

それを湊の手首にかけようとした次の瞬間、またたきをする間にその手錠は警官自身の手首へとかけられていた。

目にも止まらぬ早業、とでも言うのか。

彼は手錠をかけられる寸前で慣れたようにすり抜け、逆に相手を捕える。

それから動けぬよう、近くにあった手すりと警官を繋ぐことも忘れない。

2人居た警官のうちもう一人も慌てて湊を捕まえにかかるが、同様に返り討ちにされて手錠で繋がれる。


「お、お前ッ…!!自分が何をしているのか分かっているのか!?」

「うっせえよ。仕事中だっつってんのに捕まえようとするテメエらが悪ぃんだろ。だいたい一般人に平気で捕えられる警官ってなんなんだ、あんたらこそもっと鍛えないといけないんじゃないのか」

「…ッ!!う、ううるさい!!貴様、このまま逃げれば恐喝罪に加え警官に対する公務執行妨害罪、逃走罪、暴行罪もろもろが付いて来るぞ!!いいんだな!?」

「後で上司にでも誰にでも好きに報告しろ、俺の名は皇湊だ。忘れずに伝えろよ」


湊は警官の言葉など一切気に留めることはない。

それより何より、彼は結のことが気になっていた。


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