妖あやし、恋は難し

(…遅くないか?あいつ…)

警官ともめてごたごたあったが、かれこれ五分、トイレに籠ったまま。

物音も聞こえてこない。


(女のトイレは長いと聞くが…これが普通なのか?もしかして何かあったんじゃ…!)


胸の内がざわざわとする。

それからしばらく待ったが、短気な性格が影響した湊は
女子トイレの前に立つと、ドンドンッと扉を勢いよく叩いた。

警官もウエイトレスも思わず目を瞠る。


「おい一条!!どうかしたのか!?いるなら何でもいい、返事なり合図なりしてくれ!!!」

「・・・・」

「おい!!!」

「・・・・」


返事がない。

湊の中で瞬時に最悪の状況がシュミレーションされる。

①食べ過ぎたせいで喋れない
②中で倒れている
③非常事態が起こり中に居ない
④先程から怒っていて返事する気にもならない

④なら別にいい。

だが①②、さしては③ともなれば話は別だ。

(奥の手だ…④だったとして、その後どうなっても知るか!!)


そう覚悟した湊は、扉から少し距離を取ると、警官の居る前で懐から拳銃を構えた。

それを見た警官はより一層ぎょっとする。

ウエイトレスにいたっては小さく叫び声をあげる。


そんな中で湊は片手に拳銃を構えたまま扉に向かって勢いよくタックルをかまし、女子トイレに突入した。

< 89 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop