妖あやし、恋は難し




「例の女、部屋に入れてきましたぜ!!」

「ピーピー泣かれても困るんで一応気絶させておきやした」

「…ご苦労」


ビルの最上階


武装したスーツの男たちがむさくるしいほどの集まる部屋の中で、高級そうなソファアに偉そうにふんぞり返る男が一人。

葉巻をふかせ、シュミの悪いサングラスをかけて、汚い色の金髪を後ろに撫でつけている。

身に付けている時計やネックレスも馬鹿みたいに金ピカだ。


この男、名は巽 瑛二(たつみ えいじ)


彼らがいるビルを事務所に構えるヤクザ、巽組の組長である。

この巽組、つい数年前この地域にひょっこり現れた新手の組で、しかも世間も目に堪えぬほどの荒っぽい活動をする暴力団。

ニュースに取り上げられることも日常茶飯事だが、本人たちはそれを楽しんでいる為改める気など一切なし。

そして彼らは、自分たちの島をより一層広げるため、古くからこの地に居た黒木組と抗争を始めたのだ。

いくら力のある若手と言えど、歴史ある黒木組の力には遠く及ばない。

巽組は何度も負けた。力と、人を操る手腕と、信頼に。

だがある日とうとう、好機が訪れた。


黒木剛蔵が病に倒れたのである。


ヤクザの世界は、一枚岩。

義理人情を重んじる歴史ある組であればあるほど、トップが折れたらあっと言う間に崩れ去ってしまう。

故に、巽はこの好機を逃すまいと、周辺地域のヤクザ達と徒党を組み、一斉に黒木組を潰しにかかったのだ。



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