妖あやし、恋は難し
◇
「例の女、部屋に入れてきましたぜ!!」
「ピーピー泣かれても困るんで一応気絶させておきやした」
「…ご苦労」
ビルの最上階
武装したスーツの男たちがむさくるしいほどの集まる部屋の中で、高級そうなソファアに偉そうにふんぞり返る男が一人。
葉巻をふかせ、シュミの悪いサングラスをかけて、汚い色の金髪を後ろに撫でつけている。
身に付けている時計やネックレスも馬鹿みたいに金ピカだ。
この男、名は巽 瑛二(たつみ えいじ)
彼らがいるビルを事務所に構えるヤクザ、巽組の組長である。
この巽組、つい数年前この地域にひょっこり現れた新手の組で、しかも世間も目に堪えぬほどの荒っぽい活動をする暴力団。
ニュースに取り上げられることも日常茶飯事だが、本人たちはそれを楽しんでいる為改める気など一切なし。
そして彼らは、自分たちの島をより一層広げるため、古くからこの地に居た黒木組と抗争を始めたのだ。
いくら力のある若手と言えど、歴史ある黒木組の力には遠く及ばない。
巽組は何度も負けた。力と、人を操る手腕と、信頼に。
だがある日とうとう、好機が訪れた。
黒木剛蔵が病に倒れたのである。
ヤクザの世界は、一枚岩。
義理人情を重んじる歴史ある組であればあるほど、トップが折れたらあっと言う間に崩れ去ってしまう。
故に、巽はこの好機を逃すまいと、周辺地域のヤクザ達と徒党を組み、一斉に黒木組を潰しにかかったのだ。