妖あやし、恋は難し
案の定、黒木組はかつてないほどの痛手を受けた。
最近ではすっかり勢力が衰え、もはや存続不可能かとすら思われた。
そんな時
なんと、余命いくばくかと噂されていた黒木組組長が持ち直したという噂が流れ始めた。
初めこそただの噂だろうと楽観視していたが、次第に黒木組の士気が上がり始めたことで、そうも言えなくなっていった。
偵察してみると確かに黒木剛蔵の病状は劇的に良くなっているようで、
それと同時期に現れたのが、『あの少女』一条結だった。
屈強なボディガードを引き連れ連日黒木組を訪れる少女。
黒木剛蔵の隠し子だとか、闇の薬調達屋だとかあらぬ推測が流れたりしたものの、どちらにしろ彼女が関わっていることに変わりない。
だから巽は彼女を誘拐したのだ。利用するために。
巽は窓の外を眺め、葉巻をふかせながら呟く。
「あの女が何者であれ、黒木組にとって価値あるものに違いはないはず。完全に潰すまであと一押し…彼女には存分に働いてもらう」
自らの勝利を確信する一方で、
その行動が裏目に出るとも知らずに巽はニヒルに笑う。
彼らを潰す、怒れる『鬼』は、すぐそばまで来ていた。