妖あやし、恋は難し



―――同時刻

巽組の事務所が構えるビルの前に一台の車が止まる。


黒塗りのそれから現れるのは、眉間に深いしわを刻んだスーツの男。

皇湊である。

彼が颯爽と現れた後ろから、遅れて顔を出したのは黒木組で警備の一切を任されている蓮だった。

彼は、湊に呼ばれ巽組の事務所まで案内したのだ。


だが事務所前まで案内したはいいものの、次に彼から出された指示は『車で待機』

当然、納得がいかない蓮は慌てて車から飛び降り、湊に向かって叫んだ。


「おい、待てよっ!お前一人で巽組に乗り込むつもりかよ!!俺も行くッ!!」


誘拐された結を助けに行こうとしていることは知っている。

それなのにその原因である巽組との抗争の当事者、黒木組の人間が黙ってみているだけなんて、そんな事できるはずがない。

湊は自身の背に向けかけられる言葉を振り向くことなく聞いていた。

そして「…分かった」、と頷く。
その後に「ただし」と言葉が続くのだが。


「…ただし、余計な事は一切するな。俺が言う事、指示することだけに従え。お前は今から俺のもう一つの『手足』になるんだ。いいな?」

「あ、ああ…」

その有無を言わせぬ台詞の最中も、湊は目を合わせない。

顔をこちらに向けようとすらしない。
一体何を考えているのだろうか。どうやって突入する計画なのか。

そんな事を蓮が思っていると、湊は車の後ろにまわり、トランクを開けていた。

蓮は湊の背後に回り、こっそりトランクの中をのぞく。


「…!!?」


目を疑う光景がそこにあった。

トランクの中を埋め尽くす、真っ黒な鉄の塊。

それは、何種類もの大量な拳銃や武器の類だった。


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