妖あやし、恋は難し
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「おい、何の騒ぎだ…」
巽は、外でかすかに聞こえる物音や漂う不穏な空気に顔を上げた。
部下たちを使い様子を見に行かせようとしたとき
部屋のドアが大きな音を立て、勢いよく開けられた。
蹴破られた
そう分かった時には既に、この部屋で立つ者は、巽と、彼の額に拳銃を突きつける湊の二人だけ。
固まる巽に、湊は静かな怒りを込めて言う。
「…座れ」
膝をやられて呻き地面に転がる部下たち。
その中で、流石は組長、巽は一歩も引かず湊を睨み返す。
「…見知らない奴のいう事を聞く義理はない。さっさと出ていけ」
「……そうか、」
すると、瞬きをする間もなく
「あ゛あ゛ああーーーー!!!?」
「!?」
と
湊の背後で大きな呻き声が上がる。
どうやら扉の外に密かに構えていた手下に、湊が放った拳銃の弾が見事的中したらしい。
(振り向きもせず、背後の敵を一撃で…!コイツ…)
巽は冷や汗を流しながら、ゆっくりと湊の目を見る。
一切逸らすことなくこちらを見つめる真っ黒な眼。
闇の奥には何の感情も見出せない。
しいて言えば『怒り』のみ。
人を撃ったことに対する罪悪感・恐怖・戸惑い・恐れ、そんなものは微塵もなかった。
「座れ」
湊はもう一度繰り返す。
足がすくむというのはこの事かと、巽は腰を落としながら思った。