darkness【短編】
今夜はどこにもいかない。


墨色の夜は私の心も暗く塗りつぶす。


「忘れ物だよ。」


またか。


カエルも蟻ももう寝る時間でしょ?


「結構です。今夜は疲れているの。忘れたままにして。」


そう、なにもかも。


墨色の夜空を見上げても潔いくらい何もなかった。


進むべき道を優しく照らしてくれる月も、迷った時にこっちだよって導いてくれる星も。


何もなかった。


なのにーーー


「忘れ物だよ。」


「だから、カエルだか蟻だかしらないけど結構ですってば。」


縁側から降り立ち腰に手を当て縁の下を睨みつけると


「違う。そこじゃない。」


どうやら見当違いの方から声がする。


ゆっくり縁の下より顔を上げてみればーーー


「人間には見えないか。」


少し長めの前髪を掻き上げながら独り言のようにその人が呟いた。















< 3 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop