darkness【短編】




私から漸く唇を離したその人の口元は悲しげに歪んでいた。


「これで満足か?」


その人は薄く引き締まった唇の端に僅かに鮮血を溢れさせ荒くなる息で聞いてきた。


「そうね…これで漸く手に入るわ。月も星も、そしてあなたの最期も。」


意識が遠のく前にその人の腕に描かれたタトゥーに指を滑らせる。


私がずっと手に入れたかったもの。


私が決して手に入れることができなかったもの。


私と同じ顔をした妹もこのタトゥーをこうして指でなぞっていたのだろうか。


縁側の端で戸に背を預け息も絶え絶えのその人に抱えられながら漸く夜を見上げた。


そこには薄っすらと細い三日月と小さくとも存在を誇示し、一際、輝き放つ星があった。


「まるで私とーーー」


私はそっと瞼を閉じ、またその夜に墨を流した。



二度とは見ることの無いその夜にーーー




















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