【短】雨の日の乗車駅
雨がしとしとと降り続ける。
私と彼は黙ったまま。
「七瀬」
不意に彼が私の名前を呼んだ。
「なに?」
「七瀬、今から東京行くんだろ?」
彼にそう尋ねられた時に人とすれ違ったので、私は小さく頷いた。
「七瀬いないなら、寂しくなるな」
「六年前からあまり会わなかったじゃない。だからそんなに変わらないよ」
そう、私と彼は六年前からあまり会っていなかった。
だけど時々、ふらりと私の前に現れては、いつの間にかひらりと風のように消えていく。
彼がこの日、私の前に現れてくれて、私は嬉しかった。
私がこの町を出たら、二度と戻るつもりはないからだ。
そうしたら、私は彼と二度と会うことができなくなるかもしれないからだ。