【短】雨の日の乗車駅
「ねえ、まだ電車の発車時間まで余裕ある?」
立ち止まった彼が聞く。
「え?」
続けて私も立ち止まる。
「余裕あるの?」
「あるけど…、どうしたの?」
辺鄙な田舎町を通る電車は少ないし、次の電車を待つ時間も長い。
これが何度不便だと思ったことか。
「次に出るのは大体四十分後かな…。それがどうしたの?」
「ちょっとは話せるかなって思って」
「…うん。ホームでなら話せるよ」
私がそう言うと、彼は少し微笑んでから前を向いて歩き出した。
彼の足は─────
足から目をそらし、私は小走りして彼の隣に並んで駅まで歩いた。
その間、私と彼は喋らなかった。
私の傘に、雨がパタパタと当たる音が無情に響いた。