竜宮城に帰りたい。
「何…してるん?」
「え、な…何って…」
「『逃げんな』って、一体なんの…」
最後まで言い切らずに瑞希ちゃんは言葉を止めた。
その視線をたどって、私はその理由にすぐ気づいた。
「晴、なんで…泣いとるん?」
「どなんちゃせん。」
晴は瑞希ちゃんたちから顔を背けるが、
瑞希ちゃんの表情は晴れない。
「澪ちゃん、晴に何したん?
逃げんなって、何?」
「私は…」
「晴が泣くなんてなかったもん!
おかしいやろ!」
「お、おかしくない…。
晴だって…泣くし、
私たちと一緒でバカだし、
ただの一人の人だ。」
絞り出すように言ったその言葉に、
瑞希ちゃんは怒りをさらに膨らませた。
「澪ちゃんに何が分かるん!!
晴は特別なんや!
晴の彼女は…「やめや。」
晴の透き通るような冷静な声が瑞希ちゃんの言葉を遮った。
「なぁ、澪。」
「え…」
「お前の言う通り、逃げへんよ。」
晴の光を宿した目は、
いつも通りのそれだった。
なんの迷いもなく、前だけ見てる。
神様みたいな、
でももろい
「晴」だ。
「瑞希
別れよう。」
その言葉は空気を突き抜けて、
私たちに亀裂を作った。