竜宮城に帰りたい。
「わあっ…!上がった!!」
「……」
「綺麗だね!晴!」
「……」
晴は黙ったまま空を見上げていた。
その表情を花火の光が繰り返し照らし、
闇に浮かび上がらせる。
どれだけ盛っても、感動している顔には見えないな…。
せっかく綺麗なのに…。
「澪。」
「え?」
晴は私を呼ぶと、花火を見上げたまま言葉を続けた。
「今日、ありがとな。
東京来いって言ってくれて。」
「え…」
「あれちょっと感動したわ。」
「っ……」
花火にも眉ひとつ動かさない晴が…感動?
私の言葉が、晴を元気づけられるんだ。
私はその事実がたまらなく嬉しかった。
晴は私の方を見ずに、相変わらず花火を見続けている。
私も涙をこらえるために上を向くと、
ちょうど大きな花火が咲いたところだった。
「綺麗だね…。」
返事も、相変わらず返ってこないけれど、構わなかった。
お礼を言うのは私の方だよ。晴。
今まで感じていた劣等感を、
きれいさっぱり消してくれてありがとう。
何もできないと思っていた私に、
意味を与えてくれてありがとう。
花火を仰いでも、とうとう耐えきれなくなった涙が一筋、
私の頬を伝ったのが
どうか晴にバレなければいい。