竜宮城に帰りたい。
水の音が聞こえる。
晴が蹴る波の音。
あの日…
どうしてあんなに夜まで海に残って、
諦めたように波を蹴っていたの?
寂しいと泣いていた君の心を私は救ってあげられてる?
晴が消してくれた劣等感の残骸に、
立ち止まってる訳にはいかない!
晴が出した勇気は、報われるべきだ!
私は晴を真似して大きく息を吸い込み、
もう一度声を出した。
「晴は戻ります。絶対。」
「なんな?さっきから…あんた…」
「…だって、東京なんてそんなにいいもんじゃない。」
「は?」
「人間関係はどこか浅くて、
ビルばかりで冷たくて、
空が狭い。山が遠い。海は汚い。」
「…………」
晴のお母さんは黙って私をにらみ続けている。
負ける訳にはいかない…!!
「でも私がいます!!」
晴のお母さんは今までのにらみから一転、
驚いたように目をまんまるくした。
そして次の瞬間、ぶっと吹き出すと、
せきを切ったようにゲラゲラと笑い始めた。