竜宮城に帰りたい。
「ふふっ…なんや、あんた…」
な、なんか調子が崩れたけど…
「だ、だから!
万が一晴が東京から帰らないなんて言っても、
私が香川の方が素敵だって説得します。
私がちゃんと香川に帰らせるので安心してください!」
「ははっ…おもっしょい子やのぉ…。」
晴のお母さんは落ち着くと、
晴に視線を移した。
「あんたにとって、東京行くんは逃げるのとちゃうの?」
「ちゃうよ。
俺言われたんや。こいつに。『逃げんな』って。」
「……」
「逃げん答えが東京や。
ここは俺の竜宮城なんやて。」
「竜宮城……ふふっ…
そなん大義なもんやないよ。」
晴のお母さんは深くため息をつくと、
「わかった」
とつぶやいた。
「私からもお父さんに言ってみるけん、
あんたも説得してみまい。」
「わかった…」
晴のお母さんは最初の時と同じように優しく笑うと、
私たちに背を向けた。
リビングを出るその時、
「ほんだらの、澪ちゃん。」
と晴のお母さんは私の名前を初めて呼んでくれた。