竜宮城に帰りたい。



早月は最初より一層演技が上手くなった。



夏休みの前、

クラスで高らかに手を挙げた瞬間から、

早月は成長していたんだろうな…。



今の私は日常に埋もれていないかな。


晴は、今の私を見つけ出してくれるかな。


まだ私を浦島太郎だと、言ってくれるかな。




自問しても、答えは分からなくて、

そんなことを考えるたびに実物の晴に会いたくなる。




町に帰ってきた浦島太郎は、きっと悲しんでいたんだろうけど、

帰りたかったのは竜宮城じゃない。


乙姫様の元に帰りたかったんだ。



私にとっての竜宮城は、あの町じゃない。

きっと晴だ。




「"そうして、浦島太郎はおじいさんになってしまったのでした。"」



終了のナレーションが読まれ、教室は暗転した。




「お話はそこで終わりじゃないよね…?」



そんなことを誰にも聞こえない声で呟いた。



「澪!どうだった?

最後のリハーサル!」



「早月…!」




早月は達成感を含んだ笑顔で私に話しかける。




「うん、素敵だったよ!

演技もすごい上手になってたし。感動しちゃった!」



「ありがとー!!

明日も頑張るね!!」




私は早月の言葉に笑顔で返事をした。




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