竜宮城に帰りたい。
「浦川……?」
「どうしたの?澪ちゃん…」
目立たない私が思いっきり手を挙げた姿を見て、
クラスのみんなは私に一度注目した。
「私がやる。浦島太郎。」
ザワッ…
私の一言にクラスの全員が驚きを見せた。
しかし、すぐに呆れたような声に変わっていく。
「いや、浦川には…なぁ?無理だろ…」
「澪ちゃん、人前で演技とかできるの…?」
「できる!台詞も全部覚えてるし、動きも割と…」
「いや、覚えてたって、できるかは別じゃん?」
「やっぱり、時間短くして、準主役の人を浦島に…」
「待って!やらせて!
私ならできる!お願い!」
声、震えるな。
自信を示せ。
自分すらも…騙せ。
できる、絶対できる。
「できるよ、澪なら。」
弱々しい声がクラスの動揺を黙らせた。
「早月…」
「澪、誰より練習見てたし…
台詞とか動きも覚えてるんじゃないかな。
声もさっきみたいにしゃべれれば問題ない大きさだと思うよ。」
「でも……」
周囲の反対の空気は明らかに小さくなっていた。
「澪、お願い……!」
私の手を握った早月の手は、
私以上に震えていた。
きっと、熱があるせいじゃない。
悔しいんだ。
「うん…!任せて。」
私はその震えが止まるくらい力強く、
早月の手を握り返した。