Beautiful World
『こっちにおいでよ。そこは君の世界じゃない。海こそが君の世界だ』


『はやく帰ってきて、波糸』


波の音が、僕に囁きかける。


いつも聞こえていた誘惑。


親友の誘いとともに、僕はその声をずっと断り続けてきた。


言葉どおり、『帰った』ら最後、二度と僕は『こちらの世界』に戻ってくることはないから。


だから、僕は海に入れなかったんだ。


僕は、波音みたいに強くない。


一度海へ入ったら、絶対に戻っては来られないと確信していたから、海に入るのを拒んでいたんだ。


だけど、今日はその誘いに喜んで乗るよ。


もう、我慢も限界なんだ。


膨らみきった風船が破裂するように、僕の心もはじけてしまった。


やっと…………海に帰れる。
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