Beautiful World
一歩一歩砂を踏みしめて、波打ち際に近づく。


心臓が期待に高鳴って、僕の胸を内側から叩いているようだった。


つま先が水に触れた瞬間、鳥肌が立った。


全身が、歓喜に震える。


「……ただいま」


ゆっくりと、その感触を楽しむように進む。


ここまで我慢してきたんだから、そんなにあせることはないんだと、体にいい聞かせながら。


海は、僕を包み込んでやさしく抱きしめてくれる。おかえり、というように。


ようやく頭の先まで海に帰れたとき、僕は至上のよろこびを知った。


目の前に広がるうつくしい世界。


これこそが、僕の望んだ……僕のあるべき場所。


僕の母であり、父であり、家族。


僕に連なるすべてのものが、この中に。


体の中まで海に溶け合って。


――僕は海の一部になる。
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