愛と音の花束を

そうして、終演。
受付スタッフとしてはここからがまたひと仕事。

ホワイエで、お客様をお見送り。

お客様がはけた後、受付で預かった贈り物を各出演者に渡す。

客席やトイレ、控え室、練習室、バックステージに忘れ物やゴミがないかどうか、見回り。

そうこうするうちに出演者はホールから退出し、ホワイエに残るのは主だったスタッフのみ。

ところが、二階の客席を点検しに行った椎名が、なかなか戻ってこない。
もうすぐ退出時刻だ。

「ちょっと見てくる」
環奈に声をかけ、二階席へと向かった。




案の定、椎名は二階席にいた。

誰もいない客席の最前列に立って、誰もいないステージを眺めている。

ただ、その顔が……
いつもと違って、暗くて。
陰のある雰囲気に、声をかけるのをためらった。

あの場に立てるレベルではないことに、落ち込んでいるように見えた。
あれだけ練習しても、人様に聴かせる演奏ができるようになるまでは、まだ遠い。

……何だろう、こっちまで胸が痛くなる。

そんな顔、しないで。
< 100 / 340 >

この作品をシェア

pagetop