愛と音の花束を
そうして、終演。
受付スタッフとしてはここからがまたひと仕事。
ホワイエで、お客様をお見送り。
お客様がはけた後、受付で預かった贈り物を各出演者に渡す。
客席やトイレ、控え室、練習室、バックステージに忘れ物やゴミがないかどうか、見回り。
そうこうするうちに出演者はホールから退出し、ホワイエに残るのは主だったスタッフのみ。
ところが、二階の客席を点検しに行った椎名が、なかなか戻ってこない。
もうすぐ退出時刻だ。
「ちょっと見てくる」
環奈に声をかけ、二階席へと向かった。
案の定、椎名は二階席にいた。
誰もいない客席の最前列に立って、誰もいないステージを眺めている。
ただ、その顔が……
いつもと違って、暗くて。
陰のある雰囲気に、声をかけるのをためらった。
あの場に立てるレベルではないことに、落ち込んでいるように見えた。
あれだけ練習しても、人様に聴かせる演奏ができるようになるまでは、まだ遠い。
……何だろう、こっちまで胸が痛くなる。
そんな顔、しないで。