愛と音の花束を
そう思ったとき、彼がこちらを見た。

「あ、忘れ物はないよ」

無理矢理笑顔を貼り付けたのがわかって、胸がズキっとした。

……何か言わなきゃ。

何か。

「……来年、何か弦楽合奏でもあれば、やれるといいね。オケとは違う曲を弾くのも勉強になるから」

「うん」

輪郭に残った陰は、まだ、消えない。

私は焦って言葉を探す。
こんな風に誰かに何かを伝えたいと思って一生懸命言葉をひねり出すのはいつ以来だろう。

「去年、このホールで声をかけられた時は正直不安だったけど、半年で随分上達したじゃない。この調子でいけば、一年後、今よりずっとうまくなってるはずだよ」

だから、そんな顔、しないで。

「……ありがと。結花ちゃんは、優しいね」

……別に、優しくはない。
パートリーダーだから。
仲間に、そんな顔してほしくない、それだけ。

「私も、そうやって励ましてもらってここまでやってきたから」

椎名は、ふっと笑った。
暗い笑顔。

「ごめん、行こう」
暗い声。
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