愛と音の花束を
……わぁ。

音程がしっかりとれてる。右手と左手がちゃんと合ってる。まあこれは練習すればある程度可能。これは予想できた。

意外だったのは、早瀬先生が求める、硬くて歯切れ良い音がちゃんと出せてる。ヴァイオリンは右手のテクニックを習得する方が断然難しいものだけど、先生が素晴らしいんだろう。

速さはぴったり。しかもダレない、走らない。1人で目安なしに弾くと、どうしても自分が弾きやすいテンポになってしまい、それが聴き手に違和感を与えることがあるけれど、椎名はそれがない。

音楽的な勘がいいんだと改めて思った。


課題箇所を弾き終わり、椎名が私を見た。

完璧といっていい。
すごい。頑張ったね。

ただ、それをそのまま伝えるのは、妙に恥ずかしくて。
どう言おうか悩んでる間に、外野からどよめきとともに拍手が起きた。

咄嗟に、

「合格。戻っていいよ」

とだけ伝えると、彼はほっとしたように笑い、周りに向かってVサインを出しながら戻っていった。

……ちゃんと褒めてあげればよかった。


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