愛と音の花束を


「椎名さんはどうしますか?」

コンマスの言葉に、我に返った。

現在、練習後にいつものカフェにコンマスと2人でやってきて、次の定演のヴァイオリンメンバーのパート分けを話し合っているところ。

並んで座り、コンマスのノートパソコンを広げ、ヴァイオリンメンバーの一覧を前に、曲ごとにファーストとセカンドどちらを弾いてもらうか決めていく。

次の定演曲は2曲。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と、シューベルトの交響曲第8(9)番『ザ・グレート』。

「メンコンは人数少なくていいので降り番、メイン一曲だけ乗るのでいいと思いますが」

「……本当にそれでいいですか?」

コンマスが私を見て、そう言った。
かすかに微笑みながら言葉が続く。

「弾ききれない経験者より、頑張って弾ききる初心者……まあ彼はもう初心者の域は脱してますが、その人に弾いてもらわなくていいですか?」

「グレートは音符が多いですから、全乗りして両方消化不良になるよりは、一曲を弾きこんで達成感を味わってもらった方がいいと思います。それに、コンチェルトは特殊ですので、もう少しオケの経験が必要かと思います」

「一般論としてはそうでしょうが、永野さん個人としては?」

……微妙にイラっとして歯ぎしりしたくなるのは何でだろうか。
ただ、年上としては、涼しい顔をして切り返すしかない。
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