愛と音の花束を
「家に花瓶ある? ないならアレンジメントの方がいいと思うけど」

「あ。……んんと、家を探してみるけど、どうかな? どうなの、花瓶ってみんな持ってるものなの? 結花ちゃんは?」

「うちは売ってるからね。まあ普通の家でも代用できるものはあるだろうし、100均でも買えるから、ちゃんと準備しておいて、帰ったらすぐ活けてあげて」

「了解! じゃあ花束で!」

椎名はにっこり笑う。

思わずこちらの口角も上がりそうになり、私は奥歯にぐっと力をこめる。

この間のアンサンブルコンサートで、笑ってほしいなどと思ったのは、パートリーダーとしての気持ちであって、個人的な感情ではない。ほら、今のだって癖になっている営業スマイルのようなものだ。動揺する必要はないはず。

私はそっと深呼吸してから冷静な表情を保って言った。

「承りました。料金前払いになります」




ひとりで公民館を出て、夜空を見上げる。
冬の星座として有名なオリオン座は、この時間だともう見えない。

空気もだいぶ緩んできた。

春だなぁ。

季節は規則正しく巡っている。

半年前、椎名と出会ったばかりの頃はどうなるかと思ったけれど。

大丈夫。
私のリズムも規則正しく巡っている。

……たぶん。







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