愛と音の花束を
そして、ゲネプロ(本番前の最終リハーサル)。
順番は、本番と逆。オルガン付が先で、シェヘラザードが後。
席に座って音出しをしていると、
「あんた達、もうその格好してんの⁉︎」
という声が聞こえたので、振り返ると、一部のヴァイオリン男性陣が本番で着る礼服を着て登場した。
周りはみんな私服だから、すごい違和感。
「だって、椎名さんが礼服着て弾くの初めてだっていうから、慣れた方がいいってことになって、この格好にしたんだよ」
「身軽な女性と違って、男は大変なんだよ。重いし暑いし」
確かに礼服を着ると、いつものように右腕が動かないから、大変だろうなぁ、とは思う。
「みんな付き合ってくれてありがと」
と言いながら、椎名が登場した。
…………っ!
彼の姿を見た途端、
身体の温度が上がるのがわかった。
慌てて姿勢を戻し、
奥歯をギリギリと噛み締めながら、
目の前の譜面を睨む。
何てことだ。
格好よく見えた。
礼服のせいだ。あのガタイであんな服着てるせいだ。反則だ。落ち着け。
懸命に熱を下げようとしていると。
「いい心がけです。ねぇ、永野さん」
私服姿の三神君があろうことか私に振ってきた。
微かに笑っている。
可愛さ余って何とやら!
必死で涼しい顔を取り繕い、「そうですね」とだけ返した。