愛と音の花束を
ゲネプロ前半が終わり、後半までの休憩時間。
三神君が私の元へやってきた。
「永野さん、シェヘラザード、1楽章6ソリのバランス、重点的にチェックしましょう」
「了解です」
周りはざわついているし、席の入れ替えやトイレ休憩で私達の周りに人はいない。
ここぞとばかりに。
「で、例のお相手は今日聴きに来てくれるんですか?」
と言ってやった。
さっきの仕返しをせずにはいられないとは、私も大人げない。
だけどそこはやっぱり三神君だ。
「抜かりなく」
顔色ひとつ変えずにさらっと答えられ、逆に呆れた。
「緊張とか、ないんですか?」
「みんなと一緒ですから、心強いです」
さっきの椎名と同じ答え。
で、ゲネプロ後半、シェヘラザード。
三神君がリミッターを外してきた。
そうとしか思えないソロの凄み。
どこまでのポテンシャルがあるんだ、この人は。
ゲネプロが終わり、みんながはけるなか、指揮台から降りた早瀬先生が、コンマス席の三神君にこそっと、
「で、本番ではどうするつもり?」
と話しかけるのが聞こえた。
三神君は誰もいない客席を見て肩をすくめ、
「ホールだとテンション上がっちゃうんだよね。お客さんが入ると、さっき以上にテンション上がっちゃって、さらにやっちゃうんじゃないかな」
と答えるではないか。
まだ上があるってどれだけだ!