愛と音の花束を
開場すると、私達が控えている練習室には、「お客さんすごい数らしいよ」「行列出来てる」といった情報が流れてきた。
椎名は大丈夫だろうか。彼は前半に出番がないので、今頃受付スタッフとして働いている。
本来ならば演奏に集中させてあげたいけど、仕方ない。
廊下に並び、ステージ入場を待っていると、向こうから早瀬先生がやってきた。
……そのオーラたるや。
……思わず見惚れてしまう。
黒の燕尾服だけど、女性らしいシルエット。襟や胸ポケットに飾りがついていて、さりげなくお洒落。白のブラウスの襟もレースがついていて素敵。
長い黒髪は後ろで結い上げ、いつにも増して華やかなメイク。
持てる武器は全て使い、勝負に打って出る、格好良さ。
茨の道を切り開いていく人のバイタリティを近くで感じ、こちらのボルテージも上がる。
「かっこいい〜」「素敵です〜」
女性陣から口々に声が上がる(もちろん小声)。
「ふふ、ありがとう。頑張りましょうね」
ニコっと笑う瞳に魅入られていると、目が合った。
「永野さん、奴がやらかしたら、どうしましょうか」
楽しそうにおっしゃいますね。
「……ついていくしかないです」
私が苦笑しながら答えると、彼女は破顔しつつ、握手を求めてきた。
「オーケー、心強いわ。共同戦線、頼むわね」