愛と音の花束を
彼が弾き終わると、コンマスが拍手をした。つられて団長も私も拍手。廊下からも聞こえた。
彼はすごく嬉しそうにお辞儀をした。
「先生に習ってるんですね?」
「はい、オケで弾くことを前提に教えてもらってます」
「今後も継続されますか?」
「はい」
「うん。是非頑張ってください」
コンマスは楽しそうに笑ってうなづいた。
彼に入団届を書いてもらっている間、廊下でコンマスと2人、裁定を話し合う。
「オルガン付きのセカンドで弾いてもらって、オケに慣れてもらうということでいいのではないでしょうか」
と私。
次回の定期演奏会の曲目は、リムスキー=コルサコフ作曲『交響組曲 シェヘラザード』と、サン=サーンス作曲『交響曲第3番オルガン付き』。
まずはスタンダードな交響曲からスタートした方がいいと思った。
「同意します。またお手数おかけします」
とコンマス。
「いえ、お気になさらず」
それが役目ですから。
それにしても。
「……楽しそうですね」
気になったのできいてみる。
コンマスは笑顔で答えてくれた。
「ええ。音楽をするってどういうことか、楽器というのは何なのか、考えさせられました」
……出た。
この人はたまに、こういう哲学的なことを語る。
私には想像もつかない、難しいことを考えながら音楽をしているんだと思い知らされ、何となく好きなだけで音楽をやっている私は、そのたび、この人は遠い人なんだなぁ、と思う。