愛と音の花束を
もう! 本番前に面倒な奴!

さっき一曲やってきた私はテンションが上がっていて。

口が先に動いていた。


「シャキッとしなさいよ! いつものあなただったら絶対弾けるから! 弾いてもらわないと困るくらいになってるんだから!」


椎名が目をパチクリさせたところで、我に返った。

しまった……。

周りからは「をを〜」「永野さんカッコイイ……!」「男前!」「ついていきます!」とか何とか聞こえてくる。

本番前になんて事だ。

「あの、ついでに、背中バシっと叩いてもらっていい?」

「はっ⁉︎」

「気合い入れてください。あ、でも結花ちゃんの手を痛めない程度で」

もー、ちゃんと弾いてもらうためなら何だってやってやろうじゃないの。
アドレナリンおそろしい。

私は彼の大きな背中の真ん中を、右手で引っぱたいた。

頑丈な肉体に私の掌が当たると、いい音がした。

周りはまたも何やら盛り上がる。

「ありがとう、気合い入れて頑張ります!」

いつも通りにっこり笑う椎名を残し、さっさとその場を立ち去った。


練習室の壁際、自分の楽器ケースまで戻ると、隣に楽器ケースを置いてる三神君が待ち構えていて、微笑んだ。

「ブラーヴァ」

「やめてください」

「結果オーライになりますよ、必ず。じゃ、そろそろ円陣組みましょうか!」



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