愛と音の花束を
壁際にいる椎名の様子をうかがうと、神妙な顔つきで、“先生”に向かって何度も頭を下げている。

学校の先生?
歯医者の先生?
それともあれがヴァイオリンの先生?
しかも早瀬先生の旦那様と知り合い?

まあ、いいか。別に。


私はヴァイオリンパートの人を探し、声をかけて、「お疲れ様」と言いながら、花束や贈り物を渡す。

みんなテンションが高い晴れやかな笑顔をしていると、よかったな、と思う。


さて。渡し終わった。
残るは、椎名の分と、三神君の分。

椎名への紙袋の中には、例の、私が作った大人かわいい花束と、対照的に紫やボルドーなどの渋い花を集めた小さなアレンジメント。そして、私からヴァイオリンメンバーそれぞれへ送ったガーベラ一輪。

三神君は、毎度のことながら大量。
今回は特に多い。
車に運ぶのを手伝わないと。
ちょうどいい。椎名にも手伝ってもらおう。

その三神君は、大学時代の友人達に囲まれている。
その後には、握手待ちの若い女性達。

「一階客席チェックオッケーです!」
「バックと一階トイレオッケーです!」
受付チーフの環奈の元に、次々とスタッフから報告が集まる。

環奈が腕時計を見て、声を張り上げた。

「申し訳ありませんが、そろそろホール退出時刻です!」

その声で、ぞろぞろと人が出口へと向かう。

椎名を見ると、“先生”に、頑張れ、という風に肩を抱かれていた。

何だかとても温かい雰囲気を感じて、またもジンときた。
……はぁ、これだから演奏の後は困る。



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