愛と音の花束を
……残された椎名と私。

「はい、これ。お疲れ様」

椎名の礼服と、花束が入った紙袋を差し出す。

「ありがと」

椎名は紙袋を覗き、にっこり微笑んで、私が送ったガーベラを取り出した。
自身で仕分けしたんだろうから、贈り主が私だと分かっているらしい。

オレンジ色のガーベラ。

太陽を思わせる色。
花言葉は、『冒険心』『我慢強さ』など。

「結花ちゃんからお花もらえるなんて、うれしい。ありがと」

「……別に、みんなに送ってるだけ。しかも一輪だし」

「それでも、すごくうれしい。大事に飾る」

大きな身体でガーベラ一輪を大事そうに抱える姿を見ながら、ああ、自分はかわいくない女だな、と思う。
ちゃんと渡せば、もっと喜んでもらえるだろうに。
……でも今さら、うまい言葉も見当たらない。

「……じゃあ、お疲れ様」

「ちょっと待って!」

背を向けた私の正面に椎名が回り込んできた。

「あの、結花ちゃん、色々とありがとう」

椎名が、真面目な顔をして頭を下げた。

真剣な眼差しが私を射抜き、私は慌てて目を逸らす。

「本番、幸せで、生きてて良かったと思うくらい感動した。俺を受け入れてくれて、育ててくれて、励ましてくれた周りの人のおかげだけど、中でも一番面倒みてくれた結花ちゃんには、すごく感謝してます」
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