愛と音の花束を


メンコンのオケパートは、技術的にそれほど難しくない。
だけど、三神君のソロを聴いた後だと、自分の表現力の貧弱さに打ちのめされる。

少しでも近づきたい。
近づかなきゃ。

自分の部屋で、弱音器をつけて、夜まで練習する毎日。
ここまで練習したのは久しぶりだ。





メンコン、ソリスト抜きでの全体練習も始まった。

今まで以上にオケ全体を見渡し、気を配りながら弾くのは、精神的にかなり疲弊する。
練習が終われば、後ろで聴いていた三神君や羽生さん、各パートリーダーと軽い反省会。
それが終われば、新入団員がヴァイオリン経験者でもオケ初心者なので彼らのフォローもしなくてはならない。

……しんどいけど、今だけ、練習が軌道に乗るまで、と自分に言い聞かせる。




「結花ちゃん、ちょっといい?」

やっと仕事を終え、部屋の隅でひとり楽器を片付けていると、オーボエの本多さんがメンコンのスコアを持って話しかけてきた。

メンコンのオーボエのファーストは、本多さん。
ここ数年、メイン曲のファースト、というのが彼の指定席だったから、最初知った時は驚いた。メンコンのオーボエははっきり言って“おいしくない”のに。

でも、同時にほっとした。
チューニングで安定してAを吹いてくれるので、とてもやりやすいから。

それに……、チューニングの時に彼と目を合わせると、何ていうか、落ち着くというか、ひとりじゃないって思えて安心できる。
誰にも言えないけど。
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