愛と音の花束を
「はい、何ですか?」

私は自分のスコアを取りながら答える。

「カデンツァの後なんだけど」

私がそのページを開くと。

「っていうのは建前で。結花ちゃん、大丈夫?」

スコアから顔を上げて彼を見ると、本多さんは心配そうな顔で私をチラッと見てから、自分のスコアに視線を戻した。

大部屋にはまだ結構な人数が残っている。気を遣ってくれてるのが分かった。

私も自分のスコアに視線を戻す。

「……大丈夫、ということにさせてください」

「その言い方は大丈夫じゃないな」

「大丈夫だよ」

「結花ちゃんは表に出さずに頑張りすぎるから」

「そんなことない」

彼はくすりと笑った。

「まあ、そういうことにしとくけど。先は長いんだから、ひとりで背負いこまないこと。いいね?」

あぁ、やっぱり優しいなぁ。
この優しさが好きだった。

「……ありがと」

「どういたしまして」

本多さんはそれだけで去っていった。
本当に心配してくれたんだ。

……いい人すぎる。





帰宅してから、今日の練習の録音を聴きながら復習をして、ヴァイオリンパートのみんなへ個人練習の注意点をまとめたメールを送る。

あぁ、肩が凝って痛い。

早く寝よう。
シャワーでいいか。





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