愛と音の花束を


オケメンバー全員、約90人が揃っての反省会を終え、次回演奏会のパート譜配布に移る前。
コンマスが立ち上がった。

「ここで新入団員を紹介します」

と、椎名氏を見る。

後ろの方に座っていた彼がニコニコして立ち上がった。
みんなが彼に注目する。

「ヴァイオリンに入ることになった椎名那智といいます!」

低いけれど、ハリのある、明るい声が大部屋に響く。

「シイナナチで“な”がかぶっているので、“しいなっち”でも“なっち”でも“なっちゃん”でもお好きにお呼びください!」

……は?

みんな笑ってるけど、笑うとこ?

「本業は歯医者です。ヴァイオリン・ヴィオラの皆様、奥歯くいしばって弱ってませんか。管楽器の皆様、お口の健康は楽器ライフに不可欠です。定期的な検診をおすすめします。チェロコンバス打楽器の皆様も歯が痛いときはぜひどうぞ。椎名歯科医院で検索してくださーい!」

みんな爆笑。

うそ。全然笑いどころがわからない。

っていうかよくもまあ初対面の大人数を前にベラベラ喋れるものだ。

「楽器経験浅いですが頑張りますのでよろしくお願いします!」

沸き起こる拍手。

何だこの社交性。


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