愛と音の花束を
「あ、そうだ。ちょっとごめん」

椎名はそう言うと、私の手をとった。

な、な、なに⁉︎

「いいこと教えてあげる」

私の左手が、椎名の大きな両手で包まれる。

混乱した頭を通り越して、感じたのは、あったかくて心地よい、ということだった。

……人肌の温もりっていうのは、どうしてこうも心を直撃するんだろうか。

椎名の親指がゆっくりと、私の親指と人差し指の間を滑っていく。

……嫌な感じはしない。困ったことに。

どうしたらいいんだ、こんな時は。

対処法に困って立ち尽くしていると、椎名の親指が、私の親指と人差し指の骨の合流点で止まった。
そこでゴリゴリっと、圧力をかけられる。

途端、ズーンと身体に響くような痛みが走って、

「痛いっ!」

思わず叫んでしまった。

「そりゃツボだもん」

彼はこともなげに言って、ツボ押しを続ける。

「合谷(ごうこく)。歯痛のほか、頭痛や肩凝りや便秘なんかにも効果的って言われてる万能ツボだから、覚えておいて損はないよ」

まあ確かに最初の衝撃が過ぎれば、イタ気持ちいい、と言えなくはないけれど……。
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