愛と音の花束を
「唇閉じたま口ポカンとして」

はぁ。

「鼻で大きく深く息して、難しいこと考えない」

珍しく上から目線の指示に、ああ、この人はお医者様なんだった、と妙に納得する。

別に嫌な感じはしなくて、違う面も見られるのは……

何だろう、何ていうか……

「ほら。難しいこと考えてるでしょ。はい、反対」

だってどうすればいいのよ、と思いながら、ぼんやりツボを押す様子を眺める。

引き締まった大きな手。
骨張っていて、長い指。

あ、ダメだ。無意味に胸の辺りが苦しい。

「痛む時はこれで少しはしのげると思う。休診日は歯科衛生士も休みだから診てあげられなくて申し訳ない。どうしても我慢できなかったら、遠慮せず他の歯医者さん行っていいから」

あ、ダメだ。と、また思う。

……ああ、もう、ほんと面倒。
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