愛と音の花束を
「お父様は……?」

「母親と一緒に南の島で悠々自適」

椎名は肩をすくめて答えた。

「妹は嫁に行って、あの家には俺ひとりだけ。気楽でいいけどね。楽器の練習も気兼ねなくできるし」

それは少しうらやましい。
家族がいると音を出すのに気を遣う。

「家事とか、どうしてるの?」

「まー、それなりに。1人だとそんなに汚れないし」

初めて知るプライベートな面。
くすぐったい気持ちになるのは何故だ。

「結花ちゃんちは?」

あ、そうだよね。話を振ったら振り返されるよね。

「……父と母。弟は独立してる」

「うん」

……他に、どう話したらいいのか。
身の上話は得意ではない。

沈黙が落ちると、今度は椎名が口を開いた。

「今から行くのは友達がやってるところだから、気楽にしてて。ちょっと変わってる奴なんだけどね。あ、でもそいつは俺の担当で、結花ちゃんには女性スタッフがつくから安心して」



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